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誰似?

誰似?(3)

 
 
 

本日のお話は昨日の続きです。

 
  
  

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おふくろは、市役所に勤めていた。

毎朝ぼくを見送ってくれるのは、おばあちゃんだった。

帰ってくると、家はいつも留守だった。

どうしても寂しい時は、畑にいるおばあちゃんの所まで行った。

 

 

子どものために有給休暇を取りにくい時代だったので

参観日も運動会も学芸会も

来てくれるのは、いつもおばあちゃんだった。

 

 

それでも、おふくろの言いつけを守り

学校での成績はよかった。

6年生では生徒会長もつとめた。

 

 

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ほしいおもちゃ(めんこなど)やお菓子は

いつもおばさんが買ってくれた。

 

 

父親がいない不憫さは、やはり何も感じていなかった。

ただ、おふくろと自分の名字が違うのは面倒くさかった。

おふくろは離婚後、旧姓の「抹茶」に戻したが

ぼくの名字は父親の「バニラ」の姓のままだった。

母方と一緒に住んでいたが、戸籍は父方だった。

 

 

おそらくおふくろは、幼児期を過ぎたら

ぼくを父に返すつもりだったかもしれない。

父方は、地元ではそこそこの資産家でぼくはそこの長男になる。

幼いうちでは、どちらにつきたいか判断できないだろうと

成長を待って決めさせるつもりでいたらしい。

 

 

しかし、ここがまた複雑なことに

ぼくの父親は、おふくろと再婚だった。

実はぼくには腹違いの3人の姉がいるらしい。

前妻はその3姉妹の末っ子だけをつれた離婚したらしく

おふくろは、結婚と同時に2児の母親になっていた。

 

 

結局、その結婚生活も破綻し父親の元には前妻の2人の娘だけが残った。

 

 

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その後、ぼくは父親のいるいないに関わらず

思春期を迎え、反抗期に入った。

小学校まで優秀だった成績もどんどん落ちていった。

 

 

 

何度も言うが、ぼくは父親を必要とはしなかった。

しかし、おふくろは必要と感じたのだろう。

 

 

 

 

 

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父親は、となりの市で高校の英語の教師をしていた。

公立の進学校だった。

いけない高校でもなかった。

 

 

 

でも、そんなの関係ねぇ!だった。

 

 

 

結局、ぼくは地元の高校にすすみ

母親とはどんどんすれ違って行った。

相変わらず母親は不在で

おばあちゃんの作ったご飯を食べて

おばさんからおこづかいをもらって過ごしていた。

 

 

 

厳しい母親には、反感を持っていたが

おばあちゃんやおばさんとはうまくやっていた(…と、思う。)

 

 

 

そんなある日、部活の地区大会の試合会場で

去年の担任に会った。

 

 

 

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その時の自分の心理状態は、はっきり覚えていないが

おそらく高木先生を驚かせるぐらいの

軽い気持ちで言ったと思う。

 

 

 

「K高校で英語を教えているバニラ先生は

ぼくの父親なんですよ。」

 

 

後にも先にも、父親の存在を認めたのは

この時が初めてだったと思う。

口にした後、急激に汗がでた。

 

 

 

しかし、高木先生の反応は自分のイメージと違っていた。

 

 

「あれ?バニラ先生には

2人の娘さんがいるだけと

聞いていたけど…」

 

 

 

 

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はずかしいやら、情けないやら、みっともないやらで

その後のことは、あまり覚えていない。

 

 

やはり、自分には父親はいなかった。

そう確認しただけだった。

涙なんかでなかった。

 

 

 

自分が父親に1番近づいて1番遠ざかった瞬間だった。

 

 

 

(つづく)









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誰似?(4)

  
  
  

誰似? 誰似?(2) 誰似?(3)…の続きです。

   
  

  
  

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この時代 ならではのムーブメントに

ぼくも染まっていった。

 

 

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中学時代からの親友に

箱根アフロディーテに誘われた。

 

 

この頃のぼくは、ラジオの周波数を一生懸命合わせながら

ザ・フーやドアーズ、バニラファッジやクリームを聴くのが

唯一の楽しみだった。

…と言うより、それが全てだった。

 

 

箱根アフロディーテへは、ヒッチハイクで行った。

霧の中で聴いたピンクフロイドに

心のそこから感動した。

 

 

 

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その後は、どんどん音楽にのめり込んでいき

バンドも結成した。

地元で有名ミュージシャンがコンサートをすると

その前座をつとめるようになった。

  
  
  
 

母親は何度も学校から呼び出しをくらっていた。

なんとか高校は卒業したものの

もう2人がまともに会話をすることもなくなっていった。

 
  
  

 

しかし何かの本を探していた時、

洋裁の本や公務員読本に混じって母親の本棚から

 
  

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がでてきた。しかし…

 

 

 

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これが勝手にした唯一の母親との会話だった。

さてその頃、ある田舎の片隅で

 

 


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と、くったくない小学4年生の女の子がいた。

後にこの少女が、クリーム少年と結婚することになろうとは

ゆめゆめ思いもしない。

 

 

(もう少し、つづく)









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